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子どもを殺す母にならない為の「一線」とは

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■あなたの恋愛がうまくいかない本当の理由

子どもを殺す母にならない為の「一線」とは

http://allabout.co.jp/children/ikujinow/closeup/CU20071221A/

「畠山鈴香」事件にシンパシーを感じる「普通の」母親たち

『なんで子どもを殺すの? ――名越康文の処方箋』猪熊弘子・著(講談社)

『AERA』や朝日新聞などで執筆を続け、All Aboutでも「幼稚園・保育園」ガイドとして活躍する骨太のジャーナリスト、猪熊弘子氏。ご本人が苦笑交じりに話して下さった通り、彼女の新刊タイトルは、子育て中の母親達に向けて出版されたものとしては、少々ショッキングかもしれない。

『なんで子どもを殺すの?』

秋田の連続児童殺害事件。実の娘・彩香ちゃんを殺害し、米山豪憲君を殺害し、報道陣を前に荒々しく立ち振舞う畠山鈴香被告の姿を覚えている方は多いだろう。連日のように、繰り返しニュース番組やワイドショーで、ある種の悪意や隠しもしない好奇心と共に垂れ流されるその姿。報道の中で次々と明らかになっていく、彼女自身と彩香ちゃんの荒れた生活ぶり、そして鈴香被告本人が抱える生育歴。当時の「スズカ」は「邪悪の権化」、メディア・スター、そしてモンスターであった。

一見、例えば都会の主婦たちからは遠いところに存在するかのように見えるスズカ。しかし、その姿から目を離せなくなっている母親達が確実にいた、と猪熊氏は指摘している。



子殺しは他人事じゃない?

鈴香被告が子どもの手を振り払った瞬間を、他人事として断じられるだろうか

「疎(うと)ましくなったので、橋から落とした」という鈴香被告の供述。感情の起伏が激しく、不器用な生き方。生活保護を受けつつ、ネグレクト(育児放棄)を疑われる生活の詳細。これらが感じさせるものは、決して恵まれているとはいえない人生があるとき爆発し、そこから漏出した「下流側」の事情である。

しかし、そんな舞台仕立てよりも世の「普通の」母親たちをとらえたのは、「子育てが面倒だ」「子供がうとましい」という心理だった。子育てをする誰もが、体調が悪かったり気持ちがザラザラしていたりで、何かの拍子にふとそんな心理に陥ったことがあるのではないか。その感情を知っているからこそ、橋の上で抱きつこうとした娘をスズカが振り払った瞬間を決して他人事と断じられず、ある種のシンパシー(共感)を持ってしまう。そして、「スズカと自分との違いは何だろう」と鈴香事件を追ってしまうのだ。


「自分もスズカみたいになってしまうんじゃないか」

「スズカは、母親の持つダークサイドの総合商社」(名越氏)

猪熊氏が抱いた疑問、「なぜ世の母親たちがこれほどまでに鈴香に反応するのか」に対して、精神科医・名越康文氏は『なんで子どもを殺すの?』の中でこう分析する。自分の子どもを殺してしまった実在の母、畠山鈴香被告は、「母親の持つダークサイド」「妻、母といった拾いきれない人間の裏側の部分、自分の内面の残酷な見たくない部分を、その名前の下に集約したような存在」なのだと。鈴香は、もはや実体とは乖離した記号「スズカ」となって、母親たちの子育てへの不安を凝縮した存在になったのだと。

母親たちは、「過去にあった自分の人生の岐路の反対側にある、薄暗いもう一つの人生の風景」であるこの事件に「吸い寄せられていく」。だから、世の母親たちはこの事件から目を離せない。名越氏の回答の明快さは、母親たちのモヤモヤした気持ちにくっきりとした輪郭を与えてくれる。



「知識の量と子殺しをするかどうかは関連している」

自分の感情を真面目に見つめ、言語化することが母親たちを救う

子殺しをしない母親、子どもを愛せる母親になるための処方箋として、名越氏が提示するのは母親自身の「意識化」だ。

子育て中に誰もが感じる、どうしようもないネガティブな感情の高まりを感じたら、それはなぜなのか客観視し、その感情に言葉を与えること。「自分の感情を真面目に見つめることができる」客観性のある母親は、感情の高まりに飲まれてしまうのを防ぐことができるという。この点で、「知識の量と子殺しをするかどうかは関連している」と明言する名越氏の言葉には説得力がある。

そして、「親であることを意識して、演じること」。この「演じる」ということは決して悪いことではない、と名越氏は説明する。あれもしたい、これもしなければという人生の中で、「自分の限りある時間を子供に与え」子供と向き合うことは、「愛情というものに実体を持たせること」になるのだ。


母親たちが怯える悪夢

タガが外れる「その瞬間」がやって来はしないかと、母親達は悪夢に怯える

猪熊氏は当初、どういう親が子殺しをしてしまうのかを考えるため、統計資料を分析することでこの本に取り組んだという。

しかし、例えば子どもが殺される事件そのものの数も、子ども全体に対する比率も、1975年からの30年間では確実に減少していることがわかった。そして、世間で報道される「親と内縁関係にある人間や養父母による虐待事件が多い」というイメージとは異なり、子どもを虐待死させるのは「実の母」である事例が最も多い。その実情も背景も様々で、統計だけでは「子殺し」の深奥は見えてこなかった。

例えば夫が仕事でほとんどいない「擬似ひとり親家庭」。ただひとりで子どもと対峙し、狭い空間の中で追い詰められていく孤独な母親。その感情のタガが外れる瞬間は、一言で言い切ることのできない「その人独特の事情が絡んでくる」(名越氏)。

それはかつて自分が成長してきた中で感じていた怒りや悲しみであるかもしれないし、場合によっては記憶の奥底に封印した何かの経験であるかもしれない。配偶者や、家族や、コミュニティへの満たされない気持ちであるかもしれない。

何にせよ、ひょっとしてタガが外れる瞬間があるかもしれないと、悪夢に怯えながら子育てをしている母親たちは日本中にいる。猪熊氏自身が著書の中で語る、4児の子育ての中で経験した惨めな気持ち、焦燥、自分が自分でなく「のっとられたような」感覚には、子育て中の母親なら大いに共感する部分があるだろう。


子育て中の母親たちに読んで欲しい「こころのテキスト」

「自分勝手なエゴイズムで子どもを支配する親が多い中で、『子どもを愛せない』と一度でもつぶやいたことのある親は人間的です」(名越氏)

ガイド自身、畠山鈴香被告の事件には、何か触れてはいけないような心理的圧力を感じていた。それを表立って真剣に語るということは、自分自身の心理も掘り下げることを必要とする。振り返って自分はどうだろう、という内省なしには、同じ子育て中の母親としてスズカを語ることはできないからだ。

誰だって、自分の心の闇を覗き込みたくはない。できればそっとしておきたい。しかし子育ては有機的な、血の通った(通わせざるを得ない)作業を積み重ねることでしか進んでいかない。自分が親から受けたあれこれを無意識に子どもに返している、そんな連鎖もまた、子育ての特徴でもある。自分を見つめずには、子育てはできないのだ。

猪熊氏はこの本の後半部分で、「自分の娘を愛せない。娘を殴りつけている自分の姿を想像してしまう」というA子さんのカウンセリング風景を詳細緻密に追っていく。名越氏が緩やかに、しかし冷静で確かな足取りで寄り添い、導いていくカウンセリングからは、読み手も必ず何らかの糧を得るはずだ。「実際の事例を深くえぐっていくことで、普遍的な何かを抽出できる」という名越氏の言葉どおり、それは子育て中の母親たちが自分自身を見つめ、「自分の中の他人と出会う」きっかけを得られるテキストとなっている。

猪熊氏は、「自覚的に『親』を演じ、自らの親を見捨て、許す」ことで「十全な親になる」ことができると結論する。「今の世の中で、ちゃんと親を演じられたとしたら、それはすごいことだと思いますよ」とは、名越氏の言葉。親とは、意識して「なる」もの。その意識が、私達を「子どもを殺す母」ではなく「子どもを愛せる母」にしてくれるのだろう。



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